Monday, December 27, 2021

イスラム嫌悪に対抗する04

Ⅳ イスラム嫌悪に対抗する

A 国際法枠組み

B オンライン・ヘイト・スピーチに取り組む

C 最善の実行例

イスラム嫌悪と闘うために努力をしている国がある。欧州評議会や、スウェーデン、マルタ、ノルウェーは、宗教に基づく差別やイスラム嫌悪について政策勧告や行動計画を採択している。EUの欧州委員会は反ムスリム憎悪と闘う調整官を設置した。スペインのバルセロナとオーストラリアのヴィクトリア州は地域の行動計画を採択し、教育、対応能力養成、ヘイト・クライム予防措置、訴追の計画を含んでいる。ノルウェーの行動計画も反ムスリムのヘイト・クライム対策が含まれる。アンドラ、キルギスタン、スイス、スウエーデン、クロアチア、トーゴにも反ヘイト・クライム法がある。警察官にヘイト・クライム研修を戸なっているのは、クロアチア、ハンガリー、メキシコ、ポーランド、スウエーデンがある。ヘイト・クライム監視においてイスラム嫌悪を報告する制度を有しているのはOSCEと、スウエーデン、オーストラリア、ブラジル、クロアチア、ポーランド、ハンガリー、アメリカ、イギリス、カナダ、スペインである。ブラジルの女性家族省は宗教に基づく事案も含めて差別被害者のためのホットラインを設けている。

メキシコはソーシャル・メディア企業と、ヘイト・スピーチに反対する書き込みを強化する取り決めをしている。スウェーデンはオンライン・ヘイト・スピーチに反対し、警察に通報する市民社会組織に財政援助している。ムスリムに対する差別に対応して、ムスリム共同体の声を聞くために州会を組織している国はマルタ、オーストラリア、カタール、スイス、トーゴ、ベルギーである。

定義

被害者の経験を踏まえて効果的な対応をするため、教育や啓発の分野で、「イスラム嫌悪」の定義の試みが続いている。イスラム嫌悪を全体主義的政治的野心を隠蔽する手段、有害な実行を正当な批判から免れさせるものと見る見解がある。何を攻撃しているのかを見えなくさせる元とみる見解もある。イスラムの信仰ではなくムスリムの人そのものを攻撃しているからである。イスラムの正当な批判をかき消すため、表現の自由を委縮させる効果に注目する見解もある。

特別報告者は、特定の定義を示すのではなく、イスラム嫌悪のより良い概念的理解として、宗教の自由などの人権への影響を強調したい。反ムスリムの偏見がいかにして実行され、ムスリムの個人や共同体がいかなる経験をするか。寛容の原則宣言に従って、寛容は単に独特的義務ではなく、政治的法的要求なので、各国には結果に対処する責務がある。

 

Ⅴ 結論

ムスリムに対する意識的偏見も無意識的偏見も、ムスリムを非人間化し、ヘイト・クライムの動機となり、差別を助長し、社会経済的排除を加速させる。イスラム嫌悪は、国家が個人による偏見を容認することで悪循環に陥る。共同体において不寛容の行為が行われた場合、国家は宗教的マイノリティの権利を擁護しなければならない。ある宗教共同体がマイノリティである場合でも、その共同体が別の地域では主要な宗教共同体の場合もある。

国際人権法は個人を保護するもので、宗教を保護するものではない。イスラムの観念や指導者は、禁止されたり、処罰されるべきものではない。強調したいのは、差別と不寛容が、民主的多元主義や人権尊重を促進する国家の責務を妨げることである。平和、統合、多元的社会は、宗教に関わらずすべての人の権利を尊重する。

宗教に基づく差別と、国籍、ジェンダー、人種等に基づく差別の交差性も重要である。ムスリム女性は女性、マイノリティ、ムスリムという「三重の処罰」に直面している。

 

Ⅵ 勧告

報告書は最後に勧告を列挙している。

国際自由権委員会、ラバト行動計画、人種差別撤廃委員会一般的勧告35号のガイダンスと定義に従って対処することが基本である。

各国へ

信仰の自由に関する制約を見直すこと。差別的制約を見直すこと。

ムスリムに対する直接差別や間接差別と闘うのに必要な措置を講じること。雇用、教育、司法アクセス、住居、健康衛生、移住、市民権に関する差別を撤廃するため、情報収集、人権侵害申し立ての人権機関、差別となる法と政策の見直し。

反テロと人権特別報告者の勧告の履行。

差別、敵意、暴力の煽動に当たる宗教的憎悪の唱道の禁止。

法執行官による差別、差別的プロファイリングに対処すること。

雇用企業に

職場における差別防止のための各種の政策を採用し履行すること。

デジタル企業に

人権に基づいたアプローチを採用し、ガイドラインを実施する事。

扇動やヘイト・スピーチに取り組む努力の透明性確保。

メディアに

ムスリムに関する報道のガイドラインの採択。ステレオタイプと一般化の回避、文脈説明、ジャーナリスト研修。

市民社会に

差別の煽動を回避し、ムスリムに関する語りの本質主義化を回避すること。多様性の尊重と連帯の構築。

国連システム

国連人権高等弁務官事務所、UNESCO、反テロ諸機関、ジェノサイド防止特別顧問などが連携して、イスラム嫌悪の防止に取り組むこと。