2021年2月10日、国連人権理事会は「ジェノサイド予防のための能力強化における協力に関する対話の会期間一日ミーティング」を開催した。その概要を記録した報告書が人権理事会第48会期に提出された(A/HRC/48/42)。ごく簡潔に紹介する。
冒頭にナザット・シャミーン・カーン国連人権理事会議長、アンドラニク・ホヴァニーサン・アルメニア政府代表、ナダ・アルナシフ人権高等弁務官代理、アリス・ワイリム・ンデリト国連事務総局ジェノサイド予防特別顧問があいさつした。
(*本ブログでの外国人の固有名詞の表記は正確ではない。それぞれの母語に従った発音を調べていない。人名の読み方をできるだけ正確に表記することは重要かもしれないが、国連文書に登場する人物の氏名の発音を調べる余裕はない。私のブログでの表記に時々ご意見を頂くが、今後も調べるつもりはない。)
ホヴァニーサン・アルメニア政府代表は、国連人権理事会が、その決議43/29において、過去のジェノサイド事件の正当化、歪曲又は否定が暴力の再発のリスクを増大させると確認したことを指摘する。人権理事会は、ジェノサイドの否定はヘイト・スピーチの一形態であると確認した。ジェノサイドの否定に国家が関与し、これに反対する適切な行動をとらないと、多くの場合、過去の残虐行為の再発防止保障の行動がないことになるとした。
アルメニア政府代表は、被害者とその子孫のために、認定、説明責任、真実、補償、再発防止保障、歴史の記憶の保存を通じて正義を確保する必要性を強調した。市民社会と自由で独立したメディアが残虐な犯罪予防に決定的な役割を果たすとした。
人権高等弁務官代理は、1948年12月9日のジェノサイド防止条約の採択が世界人権宣言採択の翌日であったことから始め、ジェノサイドの予防と人権保護の結びつきを指摘した。残虐な犯罪は長期に及ぶ市民的政治的侵害、差別、経済的不平等、社会的排除、経済的文化的権利の否定に根差している。ジェノサイドなど残虐な犯罪の初期の兆候は人権理事会の機関、人権条約機関によって報告されている。ヘイトの種が成長する前に対処する継続的アプローチが求められる。予防と処罰は互いに別の孤立したものと見てはならない。説明責任の文化と、公正平等な司法運営が構造的な解決のために必要である。人権高等弁務官代理は、司法と予防の第一の責任が国家にあるとした。国際刑事裁判所も重要な役割を果たすので、国際刑事裁判所規程を批准していない国家に批准を呼びかけた。
国連事務総局ジェノサイド予防特別顧問は、ジェノサイド条約採択以後、ジェノサイド予防には前進があったが、排外主義、レイシズム、宗教的憎悪がなお人権、民主的価値、社会的安定を損ねているとした。世界は住民を残虐な犯罪から保護することができていない。
ジェノサイド予防特別顧問は、中央アフリカ、エチオピア、ミャンマー、イエメンに言及した。南スーダン政府によるアフリカ連合ハイブリッド法廷の設置承認。「神の抵抗軍」元指揮官ドミニク・オングエンの国際刑事裁判所有罪判決。中央アフリカで行われた犯罪に関連するマハマト・サイード・アブデル・カニの法廷引き渡し。ダルフールで行われた犯罪に関連するアリ・ムハマド・アリ・アブダルラーマンの法廷への移送といった前進が見られた。
ジェノサイド予防特別顧問は、ジェノサイド予防には、すべての集団の意思決定過程への真の包摂が重要とした。
その後、3つのパネル・ディスカッションが行われた。
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ジェノサイドについて以下を参照。
前田朗『ジェノサイド論』(青木書店、2002年)
前田朗『ヘイト・スピーチ法研究要綱』(三一書房、2021年)第4章