Thursday, November 04, 2021

日常の中の差別を問う

キム・ジへ『差別はたいてい悪意のない人がする』(大月書店)

[目次]

プロローグ――差別が見えますか

I 善良な差別主義者の誕生

1章 立ち位置が変われば風景も変わる

2章 私たちが立つ場所はひとつではない

3章 鳥には鳥かごが見えない

II 差別はいかにして不可視化されるのか

4章 笑って済ませるべきではない理由

5章 公正な差別は存在するか

6章 排除される人々

7章 「私の視界に入らないでほしい」

III 差別と向き合う私たちの姿勢

8章 平等は変化への不安の先にある

9章 すべての人のための平等

10章 差別禁止法について

エピローグ

人種・民族、皮膚の色、言語、宗教、性別、性的アイデンティティ、世系、家柄、出身、経済的地位、経済状態、ありとあらゆる差異をもとに、あるいは差異をつくり出して、人は人を差別してきた。

その中には、ナチスドイツのユダヤ人差別、アメリカの黒人差別、南アフリカのアパルトヘイトのように歴史的に「重大な」差別もあれば、日常の中の「小さな」差別もある。

「重大な」差別や「小さな」差別というのは、本来比較できないものを「比較」して用いた不適切な表現でもある。被害者にとっては「小さな」差別は小さくはない。

差別を論じることが難しいのは、差別の主体も客体も、差別の動機も千差万別だからだ。大小は別として、差別の心理学や社会学を展開しているつもりでも、いずれかの差別を「典型例」とすることによって、別種の差別を見えなくさせてしまうこともある。

本書は、韓国社会の日常の中の「小さな」差別の具体例を素材に、差別とは何か、差別に向き合うにはどうするべきかをていねいに論じている。記述も分かりやすい。元の文章もそうなのだろうが、翻訳も平明で優れている。

差別概念をもっとも広く浅くとって、差異の承認のすべてが差別であるとすれば、これほど説得的な本はないかもしれない。