Tuesday, January 04, 2022

「お風呂は究極の非武装」

安田浩一・金井真紀『戦争とバスタオル』(亜紀書房)

https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=1032

<内容紹介>

タイ、沖縄、韓国、寒川(神奈川)、大久野島(広島)――

あの戦争で「加害」と「被害」の交差点となった温泉や銭湯を各地に訪ねた二人旅。

ジャングルのせせらぎ露天風呂にお寺の寸胴風呂、沖縄最後の銭湯にチムジルバンや無人島の大浴場……。

至福の時間が流れる癒しのむこう側には、しかし、かつて日本が遺した戦争の爪痕と多くの人が苦しんだ過酷な歴史が横たわっていた。

■タイ…………ジャングル風呂と旧泰緬鉄道

■沖縄…………日本最南端の「ユーフルヤ―」

■韓国…………沐浴湯とアカスリ、ふたつの国を生きた人

■寒川…………引揚者たちの銭湯と秘密の工場

■大久野島……「うさぎの島」の毒ガス兵器

嗚呼、風呂をたずねて四千里――風呂から覗いた近現代史

『ネットと愛国』『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』『ヘイトスピーチ』『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』のジャーナリスト安田浩一と、文筆家・イラストレーターにして、『世界はフムフムで満ちている』『酒場學校の日々』『虫ぎらいはなおるかな?』『世界のおすもうさん』の金井真紀の2人による温泉・風呂紀行である。

硬派ジャーナリストの安田は「取材の合間にひとっ風呂、が基本動作。お気に入りは炭酸泉」と称し、元酒場ママ見習いの金井は「銭湯では、好きだったサッカー選手・松田直樹の背番号にちなんで3番の下駄箱を使用する」という。

この2人がタイ、沖縄、韓国、日本の温泉・風呂をめぐりながら漫談に励み、同時に日本の戦争犯罪の記録と記憶を訪ねる。

なんとも、のんびり、くつろいだ、ここちよい、ひとときに、湯気の向こう側には、記憶の塊のような証人が登場する。

泰緬鉄道とは何だったのか。日本軍はジャングルを切り開いて何をしたのか。私も泰緬鉄道を訪れて、今も使われている鉄道に乗り、鉄橋を渡ったので、レポートするならば、あの墓地、このミュージアム、そして地獄のような工事現場跡を思い起こすが、安田と金井はそんなありきたりのレポートはしない。なんと、日本兵が「発見」した温泉がいまもジャングル風呂として利用されている。湯気の向こう側のおぼろげな歴史を引きずり出して、読者を湯船に引きずり込む。

沖縄でも韓国でも寒川(神奈川)でも2人は、激減する銭湯に歴史の痕跡を発見する。カラオケで歴史の裏側をつぶさに読み取る。アカスリで歴史の忘れ物を拾い集める。「幻の銭湯」に招き寄せられて毒ガス戦の歴史を探索する。

済州島の温泉、ドミニカの温泉、バーデン(スイス)の温泉など各地の温泉を経験した私だが、温泉から歴史を射貫くという発想はなかった。脱帽。

巻末の「付録対談」は「旅の途中で」というタイトルだ。旅はまだまだ続くということか。なにしろ当初の企画では、グアテマラの温泉、フィンランドのサウナ、トルコのハマムなどもラインナップに入っていたという。続編が期待される。

対談の最後で、2人は「お風呂は究極の非武装」という「名言」にたどり着く。