Wednesday, January 12, 2022

フェミサイド研究文献レヴューの紹介03

3.4 データ収集における偏見

 

諸文献で論じられている主要な偏見は、民族的文化的偏見である。2019年、カナダは殺害された先住民族女性についての情報がないことに焦点を当てている。カナダのメディアにおけるフェミサイド報道を分析して、Shier and Shor(2016)は、フェミアイ度を文化化され、病理学化された取扱いがなされているという。近代的でリベラルな西側世界と伝統的で家父長的な東側世界という偏見が再生産されているが、ジェンダー規範、家父長制、女性蔑視及びジェンダー関連暴力のその他の形態は、複合的で交差的なパターンを持つことが隠されている。重要なのは、フェミサイドを惹き起こす交差的要因、文化、社会、経済、法的文脈のような要因に敏感になることである。

Walklate ret al. (2020)はもう一つの偏見として、フェミサイドの個人化(個別化)に注目する。脱政治家を批判することにより、ほとんどの情報を性別だけに絞り込み、フェミサイドのジェンダー関連の動態を理解できなくさせるという。フェミサイド事件のジェンダー批判的分析が必要である。犯罪を単に個人化(個別化)するのではなく、女性と加害者の人生と人生設計に焦点を当てるべきだという。フェミサイドのリスク要因は、府っ平等なジェンダー関係という構造、文化、時、空間に関連する。周縁化された女性殺害が忘れられてしまうリスクを強調する。

 

3.5 データ管理

 

Walby et al. (2017)によると、公的な情報は断片化されており、情報へのアクセスが不十分になるという。情報収集と公表へのより良い調整には、指標に関する合意ができるような文脈が必要である。国の中でも、国々の間でも異なる措置を連結させていくべきだという。

家族内の暴力殺害の国際比較において、Bugeja et al(2015)は、家族内暴力とフェミサイドの管理には、適切な監視機関が必要であり、暴力とその予防のためにWHOが準備したエコロジカルな枠組みを承認するべきであるという。国連女性連盟のKendall(2020)は、女性に対する暴力情報の良き統治・管理のためのプロトコルのために有益な提言をしている。

 

4.フェミサイド(類型)確認に用いられる要素と変数に関する有意義な議論

 

4.1 調査で議論されたフェミサイドの類型

EU加盟国や国際的なレベルでの比較分析には、用いられているフェミサイドの類型論が前提となる。

フェミサイドの定義は、学問分野、研究者、地理的位置によってさまざまであり、これにより比較が困難となっている(Dawson and Carrigan 2020)。異なる類型ごとに重複していることもあるが、区別することが有益である。Dobash and Dobash(2015)によると、フェミサイドの3つの類型が区別できる。パートナーによる親密なフェミサイド、性的殺人、及び65歳以上の高齢女性のフェミサイドである。若年女性のフェミサイドと自殺も、フェミサイドの特別な類型として分析される。

親密なパートナーによるフェミサイド

UNODC国連麻薬犯罪事務所(2018)は、親密なパートナーによる殺人の女性被害者を調査している。親密なパートナーによるフェミサイドの情報はグローバルなレベルで比較可能である。UNODCは家族を親密なパートナーの定義に含めているが、諸文献では親密なパートナーに家族を入れるか除外するかは多様である。イスラエルの研究であるElisha et al(2010)は、親密な殺人の類型に、3つの実行者類型を挙げている。裏切られた夫(嫉妬)、棄てられたしつこい恋人(別離)、暴君(支配)である。性格的要因を個人の性格を越えた環境的文脈の中に取り入れる必要がある。

性的殺人/フェミサイド

性的殺人とはジェンダー犯罪である(Van Patten and Delhauer, 2007)。Dobash and Dobash(2015)は性的殺人を親密なパートナーによる殺人と区別している。衣服の剥奪、身体の性的ポーズ、マスターベーションなど実質的に性的行為などが含まれる。性的殺人を認定するには、被害者―加害者関係が重要となる。性的殺人では、被害者と加害者の間の以前のトラブルや暴力は重要ではない。Myers et al(2006)は、法医学的観点から、性的殺人の背後の別の動機、性的動機の有無を議論している。怒り、権力及び支配も性的フェミサイドの動機となることがある。

Dobash and Dobash(2015)は性的フェミサイドの実行犯を分析し、共通の特徴を抽出している。

・男性は、被害者よりも若く、失業しており、非婚か離婚状態で、共に暮らしている。

・男性には女性に対する性暴力又は身体暴力の前歴がある。

・男性は女性を非難し、抵抗する女性に罰を与えようとする。

65歳以上の女性のフェミサイド

近年、高齢女性の殺害が注目を集めている。Long et al2017 。被害を受けやすい集団ンお帰結である。65歳以上の女性は親密なパートナーの被害者となるが、それ以外の男性による場合もある。Dobash and Dobash(2015)によると、親密なパートナーに寄らない殺人被害者は、高齢者かつ女性であるがゆえに狙われた被害者である。嫉妬、所有意識、別離が原因となる場合が多い。

フェミサイド―自殺

フェミサイド―自殺と呼ぶべき事例もある。子どもも犠牲となり、「ファミリイサイド」もある(Liem and Oberwittler, 2012)。フェミサイド―自殺は嫉妬、所有意識、暴力前歴の下で起きる。Balica(2016)は、200213年のルーマニアの自殺事件で、環境(都市か田舎か)、被害者及び加害者の移住者状態、被害者―加害者関係を分析している。

十代のフェミサイド

Garcia et al(2007)は、親密なパートナーによる殺人の下位類型として重大のフェミサイドを挙げている。親密なパートナーによる暴力についての教育を受けず、感情支援システムを知らず、支援を受けられない結果としての被害である。ルーマニアの研究によると、嫉妬や浮気の疑いによって十代のフェミサイドが起きる。「名誉殺人」も十代のフェミサイドとなることが多い。

その他のフェミサイド

家族領域以外で行われるフェミサイドとして、性労働者の殺害、紛争状況における女性殺害がある。法医学研究によると、売買春における女性殺害はフェミサイドの特別な形態である(Chan and Beauegard,2019)。「レイシスト・フェミサイド」「同性愛フェミサイド」「レズビアンサイド」「夫婦フェミサイド」「連続フェミサイド」「大量フェミサイド」「女児フェミサイド」などが用いられる。拷問、名誉殺人、FGM、武力紛争下の女性殺害、ギャングによるフェミサイド、組織犯罪・麻薬売人によるフェミサイド、女性人身売買、レズビアンへのヘイト・クライムなども挙げられる。