Saturday, January 15, 2022

フェミサイド研究文献レヴューの紹介04

 フェミサイド研究文献レヴューの紹介04

 

4.2 フェミサイド確認のために用いられる変数

 

フェミサイドを確認するには、殺人の諸要素を確認し、その文脈、環境、個人の行動を評価する必要がある(Lorente,2019)。

Walklate et al. 2020は、フェミサイドの「薄い」説明と「厚い」説明を区別する。薄い説明とは、殺人の原因、刑法における概念化に焦点を当てる行政情報に主に見られる。厚い説明は、暴力と共に生きるストレスの帰結をも考慮に入れる死亡結果を探求することも含み、「緩やかなフェミサイド」を射程に入れる。フェミサイドの厚い説明の諸形態は、イギリスのDobash and Dobash、トルコのToprak and Ersoyに見られる。フェミサイドを可能とする社会的ダイナミクスと個人的ダイナミクスを深く分析している。Vives-Cases et al. 2016は、欧州におけるフェミサイドの報告システムをいかに改善するかを分析している。欧州における国別の情報収集を制度化し、専門家を訓練するよう勧告している。少なくとも、被害者の性別、加害者の性別、被害者―加害者関係の類型、暴力の前歴、当局による介入歴を収集するべきである。

UNDOCのグローバルな殺人研究は助成のジェンダー関連殺害に関する比較可能な除法を提供している。モナシュ大学のジェンダー・家族暴力予防センターフェミサイド確認のための具体的な要素や変数を提言していないが、フェミサイド事件を報告・説明する民族的政治的なあいまいさについて論究している。

女性の故意の殺人/故意によらない殺人とジェンダー動機

フェミサイドの主要な議論は故意の問題、ジェンダーに特殊な状況、動機に関わる。故意の有無はどの国の司法でも刑法上重要である。故意がフェミサイドの要素であると主張する論者もいるが、故意によらない行為もあり得ると主張する論者もいる。Dawson and Carrigan(2020)は、故意は必要ない、男性パートナーによる女性の死は、殺すつもりがなくてもフェミサイドであるという。Lorente(2019)は、文化的、社会的なジェンダー背景に着目し、ジェンダー化された背景や相互関係が重要と見る。

故意は女性を統制・支配しようという考えに基づくこともある。女性が男性の地位を攻撃する場合にも。女性を利用しようとしたり、憎悪したりすることも女性殺害の行為をもたらすかもしれない。フェミサイドは、故意によるものであれ故意によらないものであれ、個別の出来事としてではなく、プロセスとして見なければならない。

Lorente(2019)は、ジェンダー動機に関連して3つの層を区別する。第1に、ジェンダーに動機を持つ行動は、ジェンダー化された文化に根差している。男女の不平等、家父長制、男女ともにこれらの文化に影響されている。第2に、ジェンダー動機殺害は社会の中で起きる。ジェンダーによる行動が実行されている文脈である。親密なパートナー、堕胎、FGM。第3に、ジェンダー動機殺害は個人間の関係の中で起きる。

Pasini(2016)は、親密なパートナー・フェミサイドに関連して男性性の側面を検討し、男性の攻撃性、人間関係における奴隷制、嫉妬、感情的依存性に即して見ている。Abrunhosa et al.(2020)は、これに「行動を支配する」という要因を追加する。「男性は「俺がお前を所有できないなら、誰にも所有させない」と考えて、別れようとする女性を殺害する。この場合、男性は自分を被害者ととらえて、女性が殺されたがっているとさえ考える。

 

4.3 リスク要因とリスク評価

ジェンダーに基づく殺人の定量的研究の主な目的は、この犯罪の流行、DVのリスク要因、フェミサイドとつながる関係性を研究することである。既存情報の二次的分析は、ジェンダーに基づく暴力とフェミサイドのリスク要因を確認しようとする。フェミサイドを殺人一般としてではなく、フェミサイド固有の文脈で研究する。Garcia et al.(2007)は、フェミサイドになりそうな親密なパートナーによる殺人の評価の重要な次元を確認する。ジェンダー、婚姻状態、年齢、民族、人種、妊娠、環境、凶器、アルコール等。トルコについてはKarbeyaz et al.2018も。イタリアについてNicolaidis et al. 2003及びZara et al. 2019. Frye et al. 2008は、周辺環境の役割を研究し、ニューヨーク市における近隣の社会解体(貧困、隣人関係の希薄性)は必ずしもリスク要因ではないという。逆にBeyer et al. 2015はウィスコンシン近隣状況が役割を果たすという。

リスク評価のため、Campbell et al.2009は、リスク評価一覧に注目する。Messing et al. 2013は、移民の重要性を指摘し、リスク評価の文化的要因に注目し、移住女性は夫の移住状態に依存するため、特別に被害を受けやすいという。

多くの研究が、親密なパートナー暴力が殺人にエスカレートするという。Boxall and Lawler,2021は、エスカレーション概念を再検討し、この概念には多様な意味合いがあるという。すべての暴力がエスカレートする訳ではない。Dobash and Dobash. 2015は、現在の紛争と以前の暴力が殺人の指標となるという。Stockl and Devries. 2013は、世界的に親密なパートナー暴力が減少すれば殺人率が下がるという。同時に、しかし、Sebire. 2017は、すべての虐待が致死暴力につながるわけではないという。

多くの質的調査研究によると、親密なパートナー殺人のリスク要因として次のものが挙げられる。

・被害者と加害者の年齢(女性が若いことが顕著)

・虐待者の失業

・精神疾患

・アルコール乱用又は薬物乱用

・両者の関係(婚姻よりも同居がリスクが高いかどうか)

・妊娠

・離別

・同居の被害女性が虐待者から去った場合

・加害者による統制・支配

・虐待者の暴力行動又はストーキング

・子どもに対する攻撃

・殺すという脅迫歴

・自宅の外での暴力

・虐待者の実子でない子ども

・自宅に武器がある場合

・被害者及び加害者の移住者の地位