Wednesday, February 27, 2019

ヘイト・スピーチ研究文献(134)LGBTヘイト規制


光信一宏「フランスにおける同性愛嫌悪表現の法規制について」『日本法学』82巻3号(2016年)

光信は愛媛大学教授で、これまでフランスにおけるヘイト・スピーチ規制について非常に詳細な研究を行うとともに、スペインの状況も紹介してきた。フランスにおけるヘイト・スピーチ規制については、主に人種・民族差別について光信の研究があり、主に宗教憎悪について曽我部真裕の研究がある。本論文はLGBT憎悪を取り上げている。これらによりフランスの法状況の全体像が見えてくる。

LGBTヘイト規制は、人種・民族差別や宗教憎悪とは異なる系譜で扱われてきた。ナチス時代のLGBT差別の歴史はあるが、そこから規制が始まったと言うよりは、1990年代後半から、当事者の運動によって議論が始まったという。刑事規制については賛否両論が出たが、結局、2004年に差別防止機構設置法に結実し、「ベルギー、デンマーク、スペイン、オランダおよびスウェーデン等に続く同性愛嫌悪表現の処罰国になった」。

光信は、差別防止機構設置法の制定過程及びその内容を紹介した上で、適用事例としてヴァネスト事件を略述する。ヴァネスト事件の破毀院判決は「差別禁止の原則と表現の自由の保障という対立する要請の間に適切な均衡を図ったものとして評価できる」とまとめる。


光信の研究については、前田『原論』247頁以下で言及した。フランス及びスペインの状況を丁寧に紹介しつつ、ヘイト規制のあるべき姿を探る重要な研究である。

なお、「差別禁止の原則と表現の自由の保障という対立する要請」というのは特殊な日本的理解である。日本の憲法学者は大半がこのような特異な固定観念を持っている。

しかし、差別禁止の原則と表現の自由の保障は対立しない。日本国憲法が明示する表現の自由と責任を守るためにヘイト・スピーチ刑事規制が必要である。国連人権理事会での議論や、人種差別撤廃委員会での議論に学んで、このように考えるべきだろう。