特集「ヘイトスピーチ規制――その比較法的検討」『比較憲法学研究』29号(2017年)
比較憲法学会の機関誌の特集号である。日本とカナダについて小谷順子、アメリカについて大日方信春、イギリスについて奈須祐治、フランスについて曽我部真裕、ドイツについて上村都が、それぞれ執筆している。100頁を越える特集であり、読み応えがある。
これらの諸国については、すでに多数の研究論文が公表されてきたため、二番煎じの面もないではないが、それぞれ本格的な論述を行い、意義のある研究となっている。5本の論文によって欧米におけるヘイト・スピーチ規制の法的議論状況がよくわかる。
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もっとも、現在の私はこうした比較法研究にはあまり興味がない。私も各国の状況を紹介してきたが、問題意識が全く異なる。アメリカやドイツといった個別国家の法状況が参考になることは確かだが。
私がやっているのは、ヘイト・スピーチ刑事規制が国際法の要請であるというテーマだ。世界人権宣言、国際自由権規約、人種差別撤廃条約に基づいてヘイト規制の基本が定まり、ラバト宣言やCERDの一般的勧告35によってガイドラインが示された。欧州人権機関における議論も進んできた。そして、「国際人権法の実行例」として世界の圧倒的多数の諸国がヘイト規制を進めている。「ヘイト規制の慣習国際法への道」が始まっているというのが私の問題意識だ。だから、百数十カ国の状況を紹介している。