Thursday, February 02, 2017

検証なき「マスメディア共同体」の検証

瀬川至朗『科学報道の真相――ジャーナリズムとマスメディア共同体』(ちくま新書)
STAP細胞事件、福島第一原発事故、地球温暖化問題という3つの事例に関する科学報道の誤謬の実態を検証し、その構造的要因を探る本である。
STAP細胞事件では、理化学研究所や著名科学者や著名科学雑誌という「権威」に寄りかかって、あとはおもしろおかしくセンセーショナルにあおる報道がなぜ起きたのかをチェックする。福島第一原発事故報道でも「炉心溶融」が起きているのに、起きていないという政府と東電の願望をそのまま横流しする異様な報道がなされたが、同じ構造に起因するとみる。地球温暖化問題では、科学報道におけるバランスのとり方をめぐる意識の差異が顕著になる。
その上で著者は、記者クラブに代表される取材体制や、新聞記事が形成される過程を振り返りながら、「マスメディア共同体」とも言うべき現状を検証する。そして、「客観報道」と「公平・中立報道」の問題点を考える。特に日本では「客観的に報道する」という「客観報道」が「権力者の主観をそのまま報道する」異様な主観報道に堕してきたことを確認する。以上のことは科学報道だけではなく、日本の報道全体に共通の問題性である。
終章で著者は「科学ジャーナリストは科学者とどう向きあうべきか」と問う。科学ジャーナリストが陥りがちな権威重視や業界内向けの姿勢にならないために、科学共同体についての認識を深め、特に現代の巨大化・組織化された、国家プロジェクトとしての科学の実態を的確に把握し、ジャーナリズムの意味を問い直し続けることが重要である。
著者は軍事研究には言及していないが、科学とジャーナリズムの関係は軍事研究においていっそう強く問われるべきであろう。
著者はSTAP細胞事件の報道を検証したメディアがないことを繰り返し指摘している。検証なき「マスメディア共同体」が何をもたらすのか、そのことの批判的検証が不可欠である。必然的に誤報を垂れ流し、その検証を放棄して、次の誤報と人権侵害に向かう現代マスメディア共同体の真相をさらにチェックするべきである。