ノルウェー政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/NOR/21-22.21
November 2013)によると、2012年3月30日、最高裁判所は、2005年6月3日の改正刑法135条aに導入された差別的スピーチからの保護を厳しく強化した規定に関する判決を言い渡した。立法者は、裁判所に、それ以前の諸決定よりも刑事責任を問うための要件を低くするように意図した。本件被告人は、酩酊状態で、エンターテインメント会場のドアマンに対して、ドアマンを貶め、その皮膚の色に基づいて職務にふさわしくないと揶揄するために、人種主義的発言を行った。「馬鹿な黒人(nigger)」「馬鹿な黒人(coon)」と繰り返し叫んだ。最高裁は、この発言が、従業員が接客しているさなかに、公開の場でなされた文脈を強調し、表現の自由の権利によって保護される価値に関係しないことを強調した。それゆえ、この発言は憲法的保護を強く受けるものではない。従って、被告人は刑法135条a違反で有罪とされた。
前回審査の結果、委員会は、公的議論におけるレイシズムに対処する戦略を発展させ、被害の申立、捜査や訴追の結果などの統計データを報告するよう勧告した。これに応じて、ノルウェー政府はヘイト・クライムの記録作業を強化している。2012年以後、ヘイト・クライムは年次統計において独立項目とされている。人種や民族、宗教、性的志向に関するヘイトや偏見に動機を有する犯罪の統計がとられている。警察庁、司法省、検察局の協力により、ヘイト・クライムの報告制度が詳細に策定されている。
2012年、警察大学校は、過激主義やインターネット上の暴力的過激主義に関する報告を強化する制度の検討を行っている。
人種差別撤廃委員会はメディアにおける人種主義的発言やヘイト・スピーチへの関心を示した。ノルウェー政府は、財政措置を講じて、スピーチの自由、多様性、開かれた議論を促進している。オンライン・ヘイト・スピーチと闘う欧州評議会との戦略的パートナーシップに参加している。
人種差別撤廃委員会はノルウェー政府に次のように勧告した。ノルウェー政府がヘイト・スピーチと闘う努力をしていることに留意するが、政治家によるヘイト・スピーチや排外主義発言が増えている。メディアやインターネット上での、マイノリティや先住民族、とりわけサーミ人、西欧以外の欧州出身者、ロマ、難民認定請求者に対するヘイト・スピーチも増えている。委員会は、刑法135条aがヘイト・スピーチからの保護のために必ずしも適切に適用されていない。委員会の一般的勧告35に照らして、被害を受けやすい集団の権利を保護し、人種主義的ヘイト・スピーチから保護し、次の措置を取るよう勧告した。政治家やメディア関係者による人種主義的ヘイト・スピーチや排外主義発言を強く非難すること。ヘイト・スピーチを刑法に基づいて効果的に捜査し、責任者を適切に訴追すること。ヘイト・スピーチ事件の統計を収集し、利用できるようにすること。ヘイト・スピーチに反対する意識喚起キャンペーンを行い、ヘイト・スピーチと闘う長期戦略を発展させること。ヘイト・スピーチの有害な影響を除去し、学校教育課程や教材に関連する情報を含めること。
人種差別撤廃委員会は、ノルウェー刑法には、条約第4条bに合致して、人種差別を助長する団体を違法とする規定が含まれていないことに関心を表明した。一般的勧告7、15及び35を想起し、条約第4条の規定が義務的であることを想起し、人種差別を助長・煽動する団体を違法であり、禁止する法規定を設けるように勧告した。