山田朗『昭和天皇の戦争』(岩波書店、2017年)
敬愛する歴史学者の最新刊である。『昭和天皇の戦争指導』、『大元帥・昭和天皇』、『昭和天皇の軍事思想と戦略』において、隠されてきた昭和天皇の思想と行動を解明し、並行して『軍備拡張の近代史』、『近代日本軍事力の研究』で日本軍事史に新たな頁を加えてきた山田は、『兵士たちの戦場』では「体験と記憶の歴史家」にも挑んでいる。すごい理論的生産力に脱帽あるのみ。
本書の副題は「『昭和天皇実録』に残されたこと・消されたこと」である。2014年に一般公開され、2015年から出版されて、現在も進行中の「昭和天皇実録」全60巻について、メディアはその内容を横流ししてきた。いくつかの著作が出されてきたが、横流しのものも少なくない。批判的に検討した著書もあるが、あまりにも大部であるため、総合的な検討はこれからである。山田は「昭和天皇の戦争」に絞って、検証している。その問題関心は、「昭和天皇実録」が、何を収録し、何を収録しなかったか、である。
「『実録』において書き残されたことは、疑いのない史実として継承されていく反面、そこで消されてしまったことは、無かったこと、不確実なこととして忘れ去られていく可能性が高い。」
特に「平和主義者としての昭和天皇」という悪質なブラックジョークがすでに幅広く流布している。「実録」もそのイメージ強化に向けて総力を注いでいると言っても良い。山田は「大元帥としての天皇」について、「国務と統帥の統合者」という局面と、「政治・儀式」の局面に着目して、残されたことと、消されたことを確認していく。その上で、昭和天皇の戦争について、満州事変期、日中戦争期、張鼓峰事件と宣昌作戦、南進と開戦、そして敗戦に至るまで、「実録」の記述をていねいに点検していく。
結論として、「過度に『平和主義者』のイメージを残したこと、戦争・作戦への積極的な取り組みについては一次資料が存在し、それを『実録』編纂者が確認しているにもかかわらず、そのほとんどが消されたことは、大きな問題を残したといえよう」と述べる。
予想通り、「実録」は、少なくとも昭和天皇と戦争というテーマに即してみるならば、歴史偽造の書というべきだろう。歴史家や歴史教師だけでなく、多くの市民が本書を読むことが望まれる。