Monday, February 27, 2017

ASEAN経済共同体の行方

岩崎育夫『入門東南アジア近現代史』(講談社現代新書)
欧州共同体がイギリスの離脱問題で揺れているように、地域共同体には新たな限界が示されてきたが、東アジア共同体論のためにも、多様な地域共同体の成果と限界を踏まえる必要がある。2008年にASEAN憲章がつくられた地域はどうなっているのか。そうした関心から読んでみた。結論として、そうした関心への答えは示されていない。
本書はむしろ「多様性の中の統一(協調)」という言葉が繰り返されるように、もともと地理的にも多様で、諸国の領土面積や人口も大小バラバラ、宗教的にも民族的にも多様なこの地域が、どのような複雑な歴史を経て、今日のASEANの挑戦にたどり着いたかを明らかにすることにある。土着国家の時代から、植民地期を経て、日本の戦争被害を受け、戦後の独立過程も多様だが、それぞれに農業国家から工業国家への転換を遂げてきた諸国の、共通性と差異を何度も何度も確認しながら、本書は全体像を示す。
インドネシアのような地域大国から、ブルネイ、東ティモール、シンガポールのような小国まで、比較するのも不思議なくらいかけ離れた諸国である。大陸の国家(ヴェトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマー、マレーシア)と島嶼国家(フィリピン、ブルネイ、インドネシア、東ティモール)。仏教のミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、イスラムのインドネシア、マレーシア、ブルネイ、キリスト教のフィリピン、東ティモール。こうした差異にもかかわらず、長い時間をかけて拡張してきたASEANであるから、性急な統合には走らない。多様性の中の統一がめざされる。
その意味では、ASEAN経済共同体もはじまったばかりであり、その帰趨は読めないし、著者は安直な予測はしない。東アジア共同体論にとって参考になる記述はほとんどない。とはいえ、東南アジアの政治、経済、社会が孕む課題がよく分かった。