Monday, March 04, 2019

アメリカ史における排外主義


浜本隆三『アメリカの排外主義――トランプ時代の源流を探る』(平凡社新書)


アメリカ・ファーストを唱え、壁を作るというレイシスト・トランプが世界を騒がせる状況を前に、浜本は、アメリカ史における排外主義を追跡する。

セイラムの魔女狩り、ネイティヴィズムと「ノウ・ナッシング」、クー・クラックス・クラン、禁酒法の時代、移民制限法、第2期クー・クラックス・クラン、マッカーシズム、公民権運動・・・といったアメリカ史における差別と排外主義が、いかなる自己認識、いかなる利害に基づいて、誰を適し、排外してきたかを描き出す。

これによってアメリカの排外主義の歴史的特徴と現在の課題を探る。新書1冊でアメリカ史のおおまかな流れをコンパクトに提示しているので便利な本だ。


もっとも、新書という制約からか、叙述がかなりおおざっぱで、あちこちで驚かされることになる。

一例だけあげると、浜本は、南北戦争とその帰結として実現した奴隷制廃止について、アメリカ内部の政治的対立、経済的要因に着目して論じ、奴隷制廃止は外的要因によらないものであり、アメリカのバランスを示すものと評価する。

実に奇妙な論法だ。浜本は、アメリカ合州国における奴隷制廃止だけを論じる。浜本にとっては、世界はアメリカ合州国だけでできているらしい。だから、アメリカの内在的要因によって奴隷制廃止が実現したのであり、これはアメリカのバランスの一例となる。

浜本は、ハイチ革命やグレナダ革命には口をつぐむ。1820年~40年代にカリブ地域を始め、各地で続々と奴隷制廃止が実現したことを隠蔽する。カナダの奴隷制廃止もなかったことになる。カナダやカリブ地域で次々と奴隷制廃止が実現したのに、最後まで奴隷制にしがみついたのがアメリカ合州国であることは隠蔽される。そうしないと、アメリカのバランスを語ることができないからだ。

本書あとがきには、平凡社の2人の編集者が「何度も原稿に目を通した」と書いてあるが、平凡社、大丈夫か? ちょっとレベルが・・・