Tuesday, March 05, 2019

部落解放論の最前線(4)




3部「部落解放の多様な課題」は次の5論文である。

「隣保事業の歴史と隣保館が求められる今日的役割」中尾由喜雄

「戸籍と人権」二宮周平

「部落差別と真宗」阪本仁

「部落民アイデンティティの意義と射程」朝治武

「部落差別の撤廃と国際人権システム」李嘉永


ここでも「多様な課題」と、部落差別に関する問題の多様性が打ち出され、それぞれのテーマに即して、多様性を確認している。「多様性ゆえの困難性」も語られる。第3部は、他の部以上に、異なるテーマ、異なる手法の論考が並ぶ。

李嘉永論文がここに置かれているのはやや不可解である。というのも、第4部「部落解放と人権の展望」の巻頭においた方が据わりが良いからだ。第4部巻頭の小野利明論文「現代資本主義をどうとらえるか」は、第1部の最後においた方が良いだろう。


多いときは980あった隣保館は特措法失効後に減り始め、816になっているという。中尾は隣保館が果たしてきた役割を確認しつつ、これからのまちづくりのモデルとして活性化させるよう提案している。

戸籍制度が部落差別を助長してきた歴史をふまえて、二宮は戸籍法改正と事前登録型本人通知制度の導入を提案する。

阪本は鳥取の部落差別と信仰の関連を問い、真宗大谷派解放運動推進本部での活動をもとに、今後の課題を模索する。

朝治は「部落民アイデンティティ」という問題意識を深めるため、まず歴史研究への視点と方法を見直し、部落民アイデンティティへの総括的な認識を提示し、部落差別問題の解決のためのキーワードとして鍛えようとする。

李嘉永は、国際人権法と部落差別の問題圏を再整理し、「世系に基づく差別に関するガイダンス・ツール」の実施の課題を論じる。

これらにより、部落差別との闘いの現状がさらによく理解できる。制度的差別との闘い、心理的差別との闘い、宗教による差別との闘い、部落を隠さざるを得ない状況との闘い、国愛人権法を活用した闘い、多様な取り組みの総合が必須であることがよくわかる。