第4部「部落解放と人権の展望」は7本の論考から成る。
「現代資本主義をどうとらえるか」小野利明
「『部落差別解消推進法』」友永健三
「部落差別解消推進法の制定と相談体制の整備について」内田博文
「日本国憲法と人権思想」丹羽雅雄
「部落解放論の新たな創造への問題提起」谷元昭信
「差別と人権 展望2017」赤井隆史
「奈良県連がめざす『両側から超える』部落解放運動とは何か」伊藤満
「現在の部落差別をどうとらえ、部落解放をどう考えるか」友永健三
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第1部から第3部まで多様な視点で部落差別と部落解放について論じてきて、運動論の課題と人権の展望はすでに十分示されているが、さらに第4部で将来に向けての課題を提示している。
部落差別解消推進法の意義と限界については、すでに繰り返し指摘されてきたことだが、限界を指摘するだけではなく、活用方法にも言及がなされている(友永、内田)。
解放の理論としては、部落解放同盟綱領の変遷をフォローした上で、水平社創立100年に向けた大胆な運動転換の議論が呼び掛けられている。特に民主主義の問い直しから解放の理論を再構築する基本姿勢が打ち出されている(谷元)。
同様に、差別撤廃への仕組み作りという関心から、まちづくりとひとづくりの2本柱での取り組みの活性化(赤井)、あるいは、「両側から超える」解放運動の理論と実践が報告されている(伊藤)。
「差別と闘う部落解放同盟型組織と、緩やかにつながるネットワーク型社会運動、加えて共済型地域助け合い運動という三つの仕掛けが求められています。」(赤井)
「私は、歴史的に差別を受けていた部落が存在していたとしても、部落出身者が部落出身であることを明らかにしても、差別されることのない社会をつくることが、『部落が解放された姿』だと考えています。」(友永)
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かくして議論は水平社創立時の闘いに直接リンクする。もちろん単に同じ議論をするのではない。100年前の議論とは、「部落を隠したり消したりするのでなく、部落差別の不当性を社会的に明らかにし、部落差別の撤廃を求めていくという方向は、全国水平社創立宣言が主張した方向でもあるのです」ということだ。
100年に及ぶ闘いの中で様々な議論があり、対立があり、時に失敗もあっただろう。だが、そうした実践の積み重ねを通じて鍛えられてきた理論が、本書において全面展開されている。部外者には当たり前に見えることが、闘いの現場で鍛えられた思想と論理として自覚的に打ち出されることに大きな意味がある。本書に学ぶべきことは多い。