朝治武・谷元昭信・寺木伸明・友永健三編著『部落解放論の最前線――多角的な視点からの展開』(解放出版社、2018年)
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第1部は「歴史から探る部落問題」で、6本の論考が収録されている。
「日本史研究から見た身分・差別および部落差別のとらえ方」寺木伸明
「<身分・差別・観念>の構造」畑中敏之
「部落史研究の『学問』としての進歩と退行について」上杉聡
「近代の地域社会と部落差別の関係から考える解放論」井岡康時
「現代の部落問題と人種主義」黒川みどり
「差別戒名・法名の現状と部落問題」木津譲
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各論考の問題意識も対象もそれぞれ異なり、論述の方法も異なるが、身分、部落、地域、研究、信仰に関連する領域の歴史を手がかりに、近現代の部落差別をめぐる表象を総攬する試みである。
歴史研究のあり方に力点を置くものもあれば、既存研究とは別に、地域と部落差別の関係をぐっと視野を広げて問題提起するものもあり、ばらばらと言えばばらばらだが、歴史的視点から部落解放への道筋と展望を切り開こうという意欲は共通している。
研究史・理論史の検証方法を見ると、部落史研究の「学問」としての発展をフォローしつつ、それゆえ、過去に克服されてきた見解も取り上げている。それらを単に過去の忘れられるべき学説とするのではなく、当時いかなる含意で唱えられ、いかなる意義を有したのか、どこに難点があったのかを確認しつつ、現在の学説との距離を測り、将来の研究への手がかりとしている。
ここには、初歩的な誤りを含んだ見解や、実践的に不適切な見解を単純に退けるのではなく、それらも含めての理論と実践の発展過程を検証する姿勢が見られる。
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寺木は、身分や部落差別の概念史を整理し、その変遷の意味を探る。研究史における概念規定だけでなく、国際人権法における概念にも視線を送り、多様な問題意識にたった定義群を十分ふまえて、さらに議論すべきと言う。
黒川は、近現代日本における「人種」と「人種主義」の独特の用語法の由来を問い、天皇制の下での国民の創造に果たした役割に焦点を当てる。そのうえで、戦後民主主義の時期における「市民社会」における「人種」というレトリカルな用語法を中上健次の問題意識に発見する。
なるほどと言えばなるほどだが、思いがけないと言えば思いがけない。こうした思考の積み重ねが次代に向けた新たな部落研究史、部落差別研究史、差別との闘いをリードしていくのだろう。