Thursday, March 21, 2019

「こころ」の謎に迫る脳科学


櫻井武『「こころ」はいかにして生まれるのか』(講談社ブルーバックス)


覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」の発見者で脳科学の第一人者による新書だ。

大脳皮質の認知機能、大脳辺縁系による記憶と常道の制御機構、そして報酬系の機能などをわかりやすく解説しながら、その「システム」から「こころ」が生まれることを示している。

「こころ」自体は、科学の対象とは言えないようだが、脳の機能が発達して、人間特有の「こころ」ができあがり、科学と文学の交差領域にあるのかもしれない。

脳の情報処理システム、「こころ」と常道の関係、脳内報酬系の謎、神経伝達物質の多様性など、知らないことばかりだ。とても理解したとは言えないが、現代脳科学がどんなことに関心を持って研究を進めているのかがわかっておもしろい。個別のエピソードは理解できるが、構造と機能の中身に立ち入ると素人には難しい。


本書カバーの表紙には、舟越桂の彫刻「山と水の間に」(1998年制作)が使われている。舟越の独特の彫像は、まさに物体に過ぎない彫刻作品に感情が宿るかのごとき錯覚を与える。どれも静謐なイメージで、およそ躍動感からは遠いのに、いまにも眉や眼が動くのではないか、唇が何かを言いたそうだ、と思わせる。表紙にこの作品を使ったのは、著者の意向だろうか、編集者の判断だろうか。いずれにせよ、本書の表紙にふさわしい。舟越とは同僚なので、ちょっと嬉しい。